9. 元代の復古主義・元末四大家の山水画

元代の復古主義

南宋を滅ぼし中国を支配したモンゴルは国号を「元」と定め、大都(だいと - 現在の北京)を都としました。漢民族の士大夫(したいふ)達は道を閉ざされ、逃げるように詩や画の世界に没頭しました。士大夫の絵画を文人画と呼びます。元は画院制度を設けなかったため、元代の絵画は民間の文人画家を中心として発展します。

初期のころの元は銭選(せんせん - 人名)や趙孟頫(ちょうもうふ - 人名)が活躍し、形式化していた南宋院体画よりも古代の素朴さを求め、絵画における復古主義を唱えました。
趙孟頫は宋の王族でしたが、教養があり高潔な人物が評価されて元の宮廷にも仕え、モンゴル人至上主義の中で漢民族としての誇りを保っていました。


元末四大家の山水画

元の末期は江南地方で活躍した「黄公望(こうこうぼう)」「王蒙(おうもう)」「倪瓚(げいさん)」「呉珍(ごちん)」の四人の文人画家「元末四大家」が有名です。黄公望、王蒙、倪瓚の3名は交友関係にもあり、導士(道教の修行者)として隠棲するなど、広く諸国をめぐり歩きながら絵を描いていました。

四人とも山水画を描きましたが、実景の写生よりも心象風景を描き出した印象が強く、呉珍は墨竹も得意としていました。各人の個性も強く、筆使いも異なりますが、五代宋初の董源(とうげん)や巨然(きょねん)に学ぶ復古的な特徴が共通しています。この時代は自由な生き方そのものも文人画化の模範として慕われました。


元末四大家

●黄公望(こうこうぼう)1269~1354(?)年「江蘇省生」
 自由な配置と筆墨法による精神性高い山水画
 代表作:富春山居図巻(ふしゅんさんきょず)

●王蒙(おうもう)1308~1385(?)年「浙江省生」
 皴法(しゅんぽう)を駆使して画面を繁雑と言えるほど埋める
 代表作:青下隠居図(せいべんいんきょず)

●倪瓚(げいさん)1301~1374年「江蘇省生」
 蕭散体(しょうさんたい)と呼ばれる独特の渇筆(かっぴつ)を使った山水を完成
  ※渇筆:筆の毛に空気が入り込むことにより生まれるかすれ
 代表作:容膝斎図(ようしつさいず)

●呉珍(ごちん)1280~1354年「浙江省生」
 墨線と点描による独特の形や光の表現が特徴
 代表作:漁夫図(ぎょふず)


元代の道釈人物画(どうしゃくじんぶつが)

道釈人物画とは、道教や仏教関係の人物を描いた絵画のことです。
元の時代、禅宗が盛んになり、達磨(だるま)のような祖師図(そしず)や禅僧達の悟りの瞬間を描いた禅会図(ぜんねず)などを題材として仏教絵画が多く描かれました。
図像の規則に従わず、人間的な動作や表情をもった仏や菩薩、高僧が登場します。

元代を代表する道釈人物画の名手として「顔輝(がんき - 人名)」が有名です。彼は迫力のある画風で知られ、彼をはじめとして、福建や(ふっけん)や寧波(にんぽー)などの工房で生産された元代の道釈人物画は日本にも輸入され、それらを手本として複製もつくられました。



青下隠居図

東洋の絵画

東洋の絵画について紹介しています。 中国の歴史と共に発展してきた絵画は日本や韓国にも影響を与えました。